デジタルアーカイブと権利

デジタルアーカイブの構築と公開において、権利管理は最も慎重に検討すべき課題の一つです。適切な権利処理を行わずに資料を公開すれば、法的なリスクが生じます。一方で、過度に慎重になりすぎると、本来公開可能な資料まで非公開のまま眠らせてしまうことになります。

本章では、デジタルアーカイブに関わる主要な権利の種類と、それぞれの対処方法について解説します。また、IIIFマニフェストやOmeka Sにおける権利情報の記述方法についても、筆者の実践に基づいて紹介します。

著作権の基礎

日本の著作権法では、著作権の保護期間は原則として著作者の死後70年間です(2018年のTPP関連法改正で50年から延長)。保護期間が満了した著作物はパブリックドメインとなり、自由に利用できます。

著作権法には、著作権者の許諾を得ずに著作物を利用できる場合(権利制限規定)も定められています。第31条(図書館等における複製等)による資料保存のための複製や、第67条(裁定制度)による著作権者不明の著作物の利用などが、デジタルアーカイブに特に関連します。

クリエイティブ・コモンズ

クリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスは、著作権者が自ら作品の利用条件を明示するためのライセンス体系です。CC BY、CC BY-SA、CC BY-NC、CC BY-NC-SA、CC BY-ND、CC BY-NC-NDの6種類と、CC0(権利放棄)、PDM(パブリックドメインマーク)の2つのツールから構成されます。

デジタルアーカイブのメタデータをCC0やCC BYで公開することで、二次利用を促進できます。Omeka SのREST APIで提供されるJSON-LDデータは、Linked Open Dataとしての再利用を想定した設計になっています。

IIIFマニフェストでの権利表示

IIIF Presentation APIでは、マニフェストのrightsプロパティに権利情報のURIを、requiredStatementプロパティに帰属表示を記述できます。これにより、ビューア上に権利情報が表示されます。

{
  "rights": "http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/",
  "requiredStatement": {
    "label": { "en": ["Attribution"], "ja": ["帰属表示"] },
    "value": {
      "ja": ["この画像は○○資料館が提供しています。CC BY 4.0に基づき、出典を表示の上ご利用いただけます。"]
    }
  }
}

筆者はOmeka SのIIIF Serverモジュールにおける権利情報の設定について、複数の記事を執筆しています。【Omeka S】IIIF Serverモジュールにおけるattributionの設定方法では、帰属表示(attribution)の具体的な設定手順を解説しました。

また、IIIF Serverモジュールのライセンスプロパティに不具合があった際には、【機能開発】Omeka SのIIIF Serverモジュールにおけるライセンスプロパティの不具合修正で修正を行いました。

Omeka Sでのアクセス制御

Omeka Sには、リソースの公開/非公開を制御する機能があります。権利処理が完了していない資料や、アクセス制限が必要な資料については、非公開設定やアクセス制限を適用できます。

ユーザー権限の管理

Omeka Sのユーザ権限と非公開リソースへのアクセスでは、Omeka Sのユーザー権限体系と、非公開リソースへのアクセス制御について解説しました。管理者、エディター、レビューアー、リサーチャーなどの権限レベルに応じて、リソースの閲覧・編集権限を設定できます。

非公開サイトの共有

権利処理中の資料を限定的に共有したい場合は、Omeka Sで非公開サイトを共有するで紹介した方法が参考になります。また、Omeka Sで非公開ファイルを扱うでは、非公開ファイルの管理方法を解説しています。

APIアクセス制限

Omeka SのREST APIに対するアクセス制限も重要です。Omeka SのAPIへのアクセス制限では、APIアクセスの制御方法を紹介しました。メタデータの公開範囲に応じて、APIの利用を適切に制限できます。

Rights Statements

RightsStatements.org(https://rightsstatements.org/)は、EuropeanaとDPLAが共同で策定した、文化遺産のデジタル公開における権利状態を表現するための標準化された声明セットです。CCライセンスでは対応しきれない、文化遺産特有の権利状況を12の声明で表現できます。

RightsStatements.orgの声明はURIとして提供されるため、IIIFマニフェストのrightsプロパティやOmeka Sのメタデータに機械可読な形で記録できます。

{
  "rights": "http://rightsstatements.org/vocab/NoC-CR/1.0/",
  "requiredStatement": {
    "label": { "ja": ["権利情報"] },
    "value": { "ja": ["著作権なし。ただし、利用にあたっては所蔵機関の利用規約に従ってください。"] }
  }
}

オーファンワークス(孤児著作物)

オーファンワークスとは、著作権者が不明または所在不明の著作物のことです。日本では、著作権法第67条に基づく「裁定制度」により、著作権者不明の著作物を利用できます。

デジタルアーカイブにおいて権利状態が不明な資料については、RightsStatements.orgの「CNE(著作権の評価が行われていない)」や「UND(著作権の状態が判明していない)」を使用して、現状を正直に表示することが推奨されます。

まとめ

本章では、デジタルアーカイブにおける権利管理の主要な側面を概観しました。著作権、クリエイティブ・コモンズ、RightsStatements.org、オーファンワークスなど、複合的な権利を適切に管理することが、デジタルアーカイブの持続的な公開に不可欠です。

権利情報は、IIIFマニフェストやOmeka Sのメタデータとして機械可読な形式で記録し、利用者に明確に伝えることが重要です。

次章では、デジタルアーカイブを支えるシステムアーキテクチャについて学びます。

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