本書の目的

IIIF(International Image Interoperability Framework、通称「トリプルアイエフ」)は、デジタル画像をWeb上で相互運用可能な形で公開・共有するための国際的な標準フレームワークです。世界中の図書館、博物館、美術館、大学などの文化機関が採用しており、デジタルアーカイブの基盤技術として急速に普及しています。

しかし、IIIFに関する体系的な日本語の技術書はまだ多くありません。公式ドキュメントは英語で書かれており、仕様書を読み解くだけでは実際にどう活用すればよいのかが分かりにくいという声をよく耳にします。

本書は、IIIFの概念理解からイメージサーバの構築、マニフェストファイルの作成、ビューアの活用までを体系的に学べる実践入門ガイドです。読者が本書を通じて、IIIFを「知っている」状態から「使える」状態へとステップアップすることを目指しています。

対象読者

本書は、以下のような方々を主な対象読者として想定しています。

Webエンジニア・開発者

画像配信の新しいアプローチに興味がある方、デジタルアーカイブシステムの開発に携わる方。IIIFのAPIを理解し、サーバやビューアの構築を行いたい方に向けて、技術的な実装手順を具体的に解説します。

デジタルヒューマニティーズ研究者

人文学研究においてデジタル画像資料を扱う方。複数機関の画像を横断的に比較したり、画像にアノテーションを付与したりといった研究活動にIIIFを活用したい方に、その可能性と具体的な方法を示します。

博物館・図書館・文書館の専門職員

所蔵資料のデジタル公開を検討している方、既存のデジタルアーカイブシステムをIIIF対応にアップグレードしたい方。技術的な背景を理解することで、開発者との協働やシステム選定をより適切に行えるようになります。

デジタルアーカイブに関心のある学生

情報学、図書館情報学、デジタルヒューマニティーズなどを学ぶ学生の方。IIIFの基礎を体系的に学ぶことで、卒業研究やプロジェクトに活用できるようになります。

本書で学べること

本書を読み終えた時点で、読者は以下のことができるようになります。

  • IIIFの全体像を把握し、各APIの役割と関係性を説明できる
  • IIIF Image APIの仕組みを理解し、画像配信サーバを構築できる
  • IIIF Presentation APIを用いたマニフェストファイルを作成できる
  • Miradorをはじめとする主要なIIIFビューアを導入・カスタマイズできる
  • アノテーション、音声・動画資源、地理参照といった発展的な機能を活用できる
  • IIIFエコシステム全体を俯瞰し、自身のプロジェクトに適した技術選定ができる

本書の構成

本書は全16章で構成されており、基礎から応用へと段階的に進む構成になっています。

第I部: 基礎編(第1章〜第3章)

IIIFとは何か、その概念と全体像を把握するところから始めます。Image APIの仕組みを理解し、画像のURLがどのように構成されるかを学びます。

  • 第1章「IIIFとは何か」: IIIFの概要、歴史、主要API、エコシステムの全体像
  • 第2章「IIIF Image API入門」: Image APIのURI構造、レベルの違い、info.jsonの役割

第II部: イメージサーバ構築編(第3章〜第5章)

実際に画像を配信するサーバを構築します。Cantaloupeによる本格的なサーバ構築から、サーバレスアーキテクチャ、ピラミッドTIFFの活用まで、実運用を見据えた技術を習得します。

  • 第3章「Cantaloupe入門」: Java製イメージサーバの導入と設定
  • 第4章「サーバレスIIIF」: AWS Lambdaなどを活用したサーバレス構成
  • 第5章「ピラミッドTIFF」: 大規模画像の効率的な配信手法

第III部: プレゼンテーション編(第6章〜第7章)

Presentation APIを学び、画像に構造的なメタデータを付与するマニフェストファイルの作成方法を習得します。

  • 第6章「Presentation API入門」: マニフェスト、キャンバス、アノテーションの概念
  • 第7章「マニフェスト作成」: 実践的なマニフェストファイルの作成手順

第IV部: ビューア活用編(第8章〜第10章)

IIIFに対応した各種ビューアの導入方法とカスタマイズを学びます。

  • 第8章「Mirador入門」: 高機能ビューアMiradorの基本操作と導入
  • 第9章「Miradorプラグイン」: プラグインによる機能拡張
  • 第10章「その他のビューア」: Universal Viewer、Clover、TIFYなど

第V部: 応用編(第11章〜第15章)

アノテーション、音声・動画、地理参照、認証など、IIIFの発展的な機能と関連ツールを学びます。

  • 第11章「アノテーション」: Web Annotation標準を用いた画像注釈
  • 第12章「音声・動画資源」: A/V(Audio/Visual)コンテンツへのIIIF適用
  • 第13章「地理参照」: IIIF Georeference Extensionによる地図連携
  • 第14章「認証API」: IIIF Auth APIによるアクセス制御
  • 第15章「ツールとリソース」: 実践で役立つツール群の紹介

前提知識

本書を効果的に読み進めるために、以下の基礎知識があることを前提としています。

  • HTML/CSS/JavaScriptの基礎: Webページの基本的な構造やJavaScriptの文法を理解していること
  • JSONの読み書き: IIIFのAPIはJSONベースであるため、JSONの構造を理解できること
  • HTTPの基礎知識: リクエストとレスポンスの仕組み、URLの構造、ステータスコードなどの基本的な概念
  • コマンドラインの基本操作: ターミナルでの基本的なコマンド実行ができること

Dockerやサーバ構築に関する知識があるとさらに理解が深まりますが、各章で必要な手順は丁寧に説明していますので、初めての方でも取り組むことができます。

本書の読み方

各章は基本的に独立して読めるように構成していますが、IIIFが初めての方は第1章から順に読み進めることをお勧めします。特定の技術トピックに興味がある方は、該当する章から読み始めても構いません。

各章では、概念の説明に加えて、具体的なコード例や設定例を豊富に掲載しています。ぜひ手を動かしながら読み進めてください。実際にIIIF画像を配信したり、ビューアで表示したりすることで、理解がぐっと深まるはずです。

それでは、IIIFの世界を一緒に探求していきましょう。